紙工視点 2018.10.15.(月)

小玉 文の紙工視点:
「紙だから」と「紙なのに」

「紙工視点」第3回目のインタビューでは、参加作家がどのように今回のプロジェクトに取り組み、どんなプロセスで製品が生まれたかを聞きました。ロックンロールの精神で、子供のように考えながら、デザイナーとしての全力で作品を生んできた、小玉 文さん。彼女にとっての「紙工視点」とは?

前回のインタビューでは、これまでに制作した年賀状のことなどを聞きました。

―紙工視点は「紙の捉え方」から考え直すことがテーマですが、今回はどこから考えましたか?

小玉 文(以下、小玉) 紙の面白さって何かな、と改めて考えたとき、「破れる」というのが、他の素材にはないものだと思ったんです。プラスチックやガラスなど「割れる」ものは結構あるんですよね。そこに面白さを感じて、数年前に「破れた状態で飾るカレンダー」を作ったんです。紙の破れた断面と質感をいかしたいと思ってデザインしました。

メタリックシルバーの紙とマットな黒い紙が交互に重なっており、中心から破ると次の月の数字につながるという大胆なデザイン。株式会社竹尾が主催した展示会「The Search 2 Feel the Paper」の展示用に制作したカレンダー。

―たしかに破れるものって、紙以外にほとんどないですね。

小玉 そうなんです、紙ならではですよね。でも、これを作ったのにはもう一つ大きな理由があったんです。普段の仕事で作るパッケージなどは、破れていたり、折れていたり、ダメージがあったりすると、不良品になってしまい、商品として扱ってもらえなくなる。そこに対して、あえて手間暇をかけてダメージ加工した物体を作る、というアンチテーゼを示したいと思ったんです。完全じゃない状態も、面白いので。

―小玉さんは今回も「破れる」というテーマで、制作を始めましたね。

小玉 はい。第一段階は、金継ぎでした。紙と紙を丁寧に金継ぎした便箋に、手紙を書いて送るというアイディアもいいなと思っていたんです。 金継ぎの教室に行ったり、金継ぎの先生に話を聞いたりしました。でもそこで、ディレクターの岡崎さんから「破れや割れといったダメージそのものについてを、もっと根本的に広げて考えてもいいんじゃないか?」というアドバイスをもらったんです。それもあって、どんなものが破れたら面白いか?というものを、実験的に作り始めました。

―どんなものを作ったんですか?

小玉 例えば、トイレットペーパーとか、辞書とかが、真ん中から破れていて、中から金色の紙が覗いているもの。まだ、金継ぎの名残もありますね。他にも、お菓子のパッケージや、トランプなど、いろいろ作りました。

「紙が素材として用いられている物」を作り、それが破れるという表現でした。

―物体それ自体が破れているんですね。

小玉 それと同時に「割れているもの」というのも作ってみたんです。そしたら、違和感が生まれて、あまり見たことがなくて面白いものになりました。そこから徐々に、「紙なのに割れている」という方向性になったんです。

―紙は破れるけど、割れないですもんね。

小玉 そうなんですよ。最初は「破れる」で定着しようとしていましたが、逆に「割れる」としたところに、ブレイクスルーがありました。

―逆転の発想ですね。そこから、どのように進めましたか?

小玉 卵の割れ方とか、地割れとか、そういった「割れ」のなかで、どういうものが美しいかを、考える時期がありました。それで、石膏をたくさん割ったり、ちょうどなぜかオフィスのガラスも事故で割れたりしたんですけど(笑)

名刺大の石膏板を制作し、ひたすら割って、ひびの出方を検証したそうです。その数、50枚ほど。

―事務所で石膏を割る日々だったんですね…。

小玉 そこで、細かく「ビシビシ」と割れているよりも、一本「ピシッ」とひび割れが入っている方が、どちらかというと、いいなぁと気づいたんです。それは、グラフィックデザイン的なアプローチでもあるんですけれど。

―グラフィックデザインとしてひびを考えたんですか?

小玉 日本画の一本松のようなイメージでした。空間の中に一本の線が走っているような、そんな状態を目指したかったんです。なので、最終的なひびの形状は、割れたものをトレースしたかたちではありません。同時に「スタンダートなひび」という考え方もありましたね。

―スタンダートなひび…?

小玉 どんな素材に合わせても違和感のない、ひびの形を選びたいと思いました。「汎用性の利くひび」と言ってもいいのかもしれません(笑)製品化の段階でうまくいくかはまだわかりませんが、できたらいくつかの種類を作りたいと思っているんです。石や卵、タイルなど、いろいろな質感に当てはめられるようにしたくて。卵は、本来は内側から割れるものだし、タイルとは割れ方が全く違うんですけど、全部が並んだときに、同じひびの形でも、異なる素材が割れているように見える方が面白いなと。

―卵やタイルっぽい紙、というのも探したんですか?

小玉 そうなんですよ。私たちは長期間この製品を見てきていますけれど、最終的にこの物体をはじめて店頭で目にする人にとっては、見て一瞬で面白いかどうか、だと思うんです。「紙なのに割れてる!しかも石っぽい!」って。そう感じてもらうためには、石の一種類だけだと、なにかの素材に見立てて割れているんだ、ということが分からないと思ったんです。だから、3種類必要かなと思っています。

―見た瞬間に分かる必要があるんですね。

小玉 第一印象って、大事なんです。ライブのステージだって、出てくるとき、重要じゃないですか。だから、0.1秒で、面白い!って思わせられないとダメだなと。もちろん、じっくり見てショボくても、ダメなんですけれど。そこを詰める作業は今、福永紙工さんが頑張ってくれています(笑)

小玉 文さんの製品「CRACKED PAPER(STONE)」は、高精度な技術を駆使して、あえて、ひび割れをつくった紙の箱。通常の組箱ではなく、Vカット箱にすることで、木箱のような精巧なディテールが生まれています。Photo © Gottingham

―このような長いプロセスから生まれた、今回の「CRACKED PAPER」。ちなみに、割れている内側の色や素材は、どのように決めたんですか?

小玉 「特定の素材っぽく見える組み合わせにしたい」という考えが、まず第一にありました。例えば卵の場合、外が白で、中が黄色、というのは分かりやすいじゃないですか。でも、中をマットな黄色にしちゃうと、チラリズム的になにかが足りない、という気がして、ゴールドの紙を選びました。タイルに関しては、割れた断面が白いというタイルの特徴は外せないと思って、内箱はマットな白に。ストーンに関しては、外箱と内箱のコントラストをつけるために内箱を黒にしました。

CRACKED PAPER(EGG)Photo© Gottingham

CRACKED PAPER(TILE)Photo © Gottingham 上記の2つは、製品化準備中です。

―完成したものを見て、感想はいかがですか?

小玉 私はすっごく、いいと思ってます!前回の話にもつながりますが、割れている紙の箱なんて、全然、日常には必要のないものです(笑)でも、何の役にも立たないかもしれないけれど、そこには美学がある。それを大人たちが全力で作るかっこよさを、後世に残していきたいんですよね。例えば、地球の生物が一度滅んだ後にこれが出てきて「これ、なんのために作ったんだろう…でもめっちゃかっこいい!」って思ってもらえるようなものにしたい。ロマンがあるじゃないですか。

紙工視点の感想を聞いたところ「楽しかったです!」と小玉さん。

「CRACKED PAPER」を含む、紙工視点プロジェクトでの、「視点」とプロセスが見られる展示は、国立新美術館地下一階、SFT GALLERYにて、2018年10月17日よりスタートです。みなさまのお越しをお待ちしております。

取材・構成:角尾 舞

 

 

【展示詳細】
[会期]2018年10月17日(水)―12月24日(月・祝)

営業時間:10:00―18:00(金曜、土曜祝日のみ20:00まで営業)※美術館営業時間に準ずる定休日:毎週火曜日(祝日または休日にあたる場合は営業し、翌日休み)

[場所]国立新美術館B1 スーベニアフロムトーキョー内 SFT GALLERY
〒108-8558 東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館B1
TEL 03-6812-9933 FAX 03-5775-4670
https://www.souvenirfromtokyo.jp/gallery

[ギャラリートークイベント]
2018年10月26日(金)18:00―19:30

登壇:荒牧 悠、小玉 文、辰野しずか
進行:岡崎智弘 司会:角尾 舞
※事前申し込みは不要です。当日どなたでもご参加いただけます。※入場無料※混雑の際はご案内を変更させていただく場合がございますので、ご了承のほどお願いいたします。

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