紙工視点 2022.09.16.(金)

「紙工視点(シコウシテン)2022」②
パーフェクトロン(クワクボリョウタ+山口レイコ)=美術家

自らの意志で「立った紙」に与える物語

パーフェクトロンが創り上げたのは、天体「カミブリア」の物語。そこは、紙の棲息する平面世界です。立体へ立ち上がることを覚えた紙の「生きもの」たちの図鑑では、歴史や進化、個体の特徴、器官や生態などについて詳細な図版で解説。さらに、その実物大レプリカ1点がセットで付属します。この不思議なプロダクトが生まれたプロセスを作者のおふたりに聞きました。


パーフェクトロンの山口レイコさん

普段の仕事

――あらためてパーフェクトロンは、どういうおふたりなのか。これまでのお仕事を、実例を交えてお聞かせください。

山口:パーフェクトロンでは映像と企画展示を手がけていて、美術館などで展示する作品を作っています。例えば今やっているのは、映像のほうは『デザインあ』のコーナー担当をずっとしています。

「デザインあ展」(2013年)の『ごちゃまぜ文庫』
created for Exhibition“Design Ah!” at 21_21 DESIGN SIGHT, 2013

「虫」展(2019年)の『キレイとゾゾゾの覗き穴』

景丘の家 SPECIAL MONTH 『およそ3分間の迷子』(2021年)

――クワクボさんはIAMAS(岐阜・大垣市)で教鞭も執られていますよね。

クワクボ:そうですね。あとは、自分の個人的な制作もやっています。パーフェクトロンでの作り方、考え方とかとはずいぶん違うものですね。


最初のオーダーからプロダクトの着想まで

――福永紙工やディレクターの岡崎さんからどのように声が掛かって、オーダーなりを受けたか。どういう段階を踏んで、今のところに着地したんでしょう。

山口:福永さんからのお話は「紙がだんだん不要になっていく」という状況から、もうちょっと紙をクローズアップして、また新しい商品を作りたいと。岡崎さんからは「新しい着想そのものがほしい」ということで、これまで紙の商品をあまり作ったことがない人たちに声を掛けているんだよ、といった話をいただきました。製品化をまず考えてしまうと効率などを優先してしまうから、「とにかく新しいアイデアを出して遊んでもらいたい」みたいな話だった気がします。

 クワクボはともかく、私はこれまで本当に紙とは縁がなかったです。紙って、ちょっと壊れやすくて、汚れやすく、儚(はかな)いじゃないですか。そういう「すぐ壊れちゃう」というが意識がずっとあって、あまり触れなかった。「水に濡れたらふやけちゃうし」とか。

 それで、むしろ儚いものを「別の視点から見たら、すごい面白い瞬間があるのではないか?」という風にクローズアップしてみたらどうか、という感じで始めました。

――最初はどんなことをやったんですか。

山口:ストローの袋をくしゅくしゅとやって、水を垂らすと伸びますよね。それを意図的に形作って、文字ができたらいいんじゃないかと。L字になるとかV字、W字になるとかまでは行ったんですけど、紙が調達できなくてダメになり。日本で作られていなかったんです。

 あとは、紙コップの上にトレーシングペーパーを載せて、携帯のスピーカーのところに置くと振動して音が鳴るものとか。それから、紙のチーズ。穴が開いてて、蛇腹を開くと水玉みたいになっていて、チーズの塊にもなるというものです。

初期の実験の様子

山口:紙の積層したものの断面の手触りを味わうものだとか、崩れていくと違う色が出てくる積層とか、そういうものを実験していました。

クワクボ:積層しなくても、紙の切った形で手触りが変わるというものもあった。

山口:あとは「トレペを湯気で揺らして動かそう」とか、そういう実験もしていました。

――だんだん紙を動かすほうに移ってきた。

クワクボ:その後、紙が自分の重みで変形していくという、吊り下げ型の試作を作ったのが長くて。今の「カミブリアン」になる直前のものでした。

山口:真四角なんだけど、ぶら下げるとモビールみたいに別の形になって、また戻すと真正方形になるという。

――試作を見せてもらったとき、モビールの光の影がすごく綺麗だったのを思い出します。ミーティングが終わって持ち帰る時、1枚の平面にペタッと戻すのも印象的で。

山口:ばっちり平面に戻るというのをやっていて。それを作っていたら、あるとき端っこを裏返したら立ったんですよ! これが「生き物みたいだね」とクワクボが言ってくれて。私はまだぶら下げるほうに心も残っていたんですが、ぶら下げるものって、わりとモビールとしてもう確立しているので、なかなか先が見込めなかったというものもあったり。立つほうが新しかったので、そっちにシフトしていきました。

クワクボ:それまでいろいろ試したけども、紙ってさすがに大勢の人が今までいろんなことをやられているので、どうも革新的な新しいことというのは、なかなか出てこなくて。


どんな風にプロジェクトが進んだか

――「裏返して立った」のをメンバーみんなで面白がりましたよね。次第に「紙の特性」みたいな話になっていきました。

クワクボ:基本的には、その「立つ」というのをやろうとした辺りから、我々が何か作るというよりは、紙自体に目的を与えて、それを進化させるという考え方にしたと。なので、紙はなぜ立つかというのは分からないんだけれども、それは「生物にはなぜ生命があるのか」というのと同じような至上命題として、まずは「とにかく紙が立つ」という条件を与えた。その中でいろいろな進化をさせるという風に主体性を変えたんです。我々がどんな風にしたいかという考えじゃなくて、「紙かどうなりたいか?」という風に視点を移したというのが大きな違いです。

パーフェクトロンのクワクボリョウタさん

クワクボ:たとえば、その中で「より高く立たせるにはどうしたらいいか?」とか「頭の部分をもっと広げるにはどうしたらいいか?」という「謎進化」をさせたり。それがどうして生存上優位なのかはまだ分からないんですけれども(苦笑)、そういう条件を与えて、それぞれの進化形を作るということをやりました。

山口:まず最初に「折らないで立つ」というルールだけを決めて。それにのっとって、とにかく「どう立つか」というのを実験していったんです。

クワクボ:そのために、レーザーカッターを入れて試せるようにしたんですよ。

山口:正直、やっている時は「紙が立つか/立たないか」「どう立つか/立たないか」だけなので、途中で「私、いったい何をやっているんだろう?」みたいな気持ちになってくるんです(苦笑)。でも、すごいたくさんの量ができてくると、ちょっと愛おしくなって。

 で、また作り出すと、再び「何やっているんだろう?」と。自分が主体じゃないので、分からなくなってしまう。目的はこの紙が立つことにあって、私たちはこういう風にしたいというものはないので、作っているときには不安定な気持ちでした。「可愛いのか/可愛くないのか」がいつも揺れ動いていて。

 何か世界観を作らないと、愛おしくなりきらない感じがあって。それで、物語的なことをふたりで考えるというか、勝手にできてきたというか。

――なるほど、世界観には、そういう背景があったんですね。

クワクボ:僕は、ただ「これはこういう世界観だったら面白いな」みたいな感じだったので。ここは所見が分かれるところかもしれませんね(苦笑)。

無数のプロトタイプが生まれた

クワクボ:さっき言い忘れましたけど、「折らない」ということがかなり重要でした。紙を折っていいことにしてしまうと、そこから先には「折り紙」を始めとした、莫大な過去の経験があるわけです。折ることで紙は丈夫になるので、構造が作れますからね。そこを避けてみました。

 折り紙でも、もし紙を切ったらそれは折り紙じゃない、という話になるのと同じように。僕らのは紙を折ったら……。

山口:負け。

クワクボ:そう。それはかなり最初に設定して。それでいながら立たせる、ということをやろうとしたんです。

山口:最初も何となくフワッと立ったので。その感じをそのまま。

――「折る」が入ると、この世界に「神」の介入が入っちゃうんですね(笑)。進化じゃなくて。

山口:そうです。

クワクボ:作りながら立たせる時に、人間で言うといろんな器官がありますよね。その部分部分にどういう工夫をすると安定して立てるか。

 たとえば「ねじり関節」みたいな、関節の部分は折れる方向に紙を使うんじゃなくて、紙をねじる方向で使ったほうが柔軟だしヘタらない、というところとか。それを発展させて「蛇腹構造」を作って、紙が風でも揺れ動くような柔らかい関節構造を作ったりという風に、いろんな器官を開発、つまり進化させました。

 1回進化した器官は、次の種を作る時にも再利用されるという風にやっているうちに、ある程度、ヒトがモノを工夫して作ることと、生物の進化の共通点というものを感じました。それは主体がどこにあるのかというのとまるで違う話なんだけど、「モノの進化と生物の進化というものは、少し平行関係にあるかもしれない」ということを作りながら思いましたね。

――おふたりの役割は、どう分担されたんでしょうか?

クワクボ:「種」を作るのは、それぞれやって。どちらが主導というわけでもなく。片方が作った器官をこっちが使ってみたりとか。

山口:紙のそのものの機構というか「こういう仕組みなんだ」みたいなのを解明していったのはクワクボで。それを借りて私が作ってみて「こうなったよ?」「じゃあ、これをこうして」みたいな。

クワクボ:確かに。以前のぶら下げる時から、山口さんが「四放射相称(し・ほうしゃそうしょう)」と言うんですけど、4つに点対称/線対称、同じものが4方向に連続している全体図というものは作っていました。小さい各要素みたいなものは、僕が要素だけ実験したり、ということを最初にしていましたね。

山口:クワクボが研究してくれて、それを「ちょっと貸して?」みたいなことをやって。「それだったら、もっとこのほうがかっこいいよ」みたいなのをずっとやり取りしていました。

クワクボ:冊子のほうになると、細かい器官の説明みたいなのは僕が書いていたんですけど。あとは、世界像みたいなものは何回かお互いにリライトしたよね。

山口:そうですね。私はザックリとしか書けないので(苦笑)。ザックリ書いたのを渡すと、綺麗になって返ってくる。

クワクボ:若干、理屈っぽくなって。それをもう1回。

山口:「ここはこういう意味じゃなかったの?」みたいなので直して、みたいな。

クワクボ:設定の擦り合わせが、いろいろ大変でした。


「紙」という素材への感想

――当初は身近ではなかった「紙」という素材に、どんな感想を持たれていったんですか。

山口:同じグラム数の紙とかでも全然コシも違うし、縦目と横目の感じも違うし、同じように立たせても立たなかったり、フォルムが変わっていくので「これは奥深いものなのだ」という。私は今まで本当に触っていなかったので、そう実感しました。

クワクボ:今回、我々が使っていたのは、比較的「薄い普通の紙」が多くて、分厚くて丈夫とか、そういう特別なものじゃなくて、かなり普通な紙――「普通」というのがあるのか分からないですけど(苦笑)。

 それを使ったけど、確かに「立たせる」って意外と微妙なバランスで成り立って。同じ条件で切ったのに、立ったり、立たなかったりするんですよ。うちのレーザーカッターだと立つんだけども、福永さんのところの高性能のやつで切ると「切りしろ」がすごく少ないから細く切れるので、思ったより足が太くて丈夫になる。コンマ1~2ミリぐらい変わっても、それで立たないという条件の違いもあるし。

 同じ種類の紙でも「色が濃いと実は硬い」というようなことも今回、初めて知ったりとか。

山口:ああ、そう!

クワクボ:カーボンが入っているのか何かで、ちょっともろくなるというか、硬くなるんですよね。たぶん、人間の手で触るぐらいの感覚だと、そんなに認識していなかった。「立たせる」となると、それがすごく影響するので、本当に微妙な違いに気付づくというのがありました。

 こういう解剖学的な経緯がカミブリアンの生態として冊子に書いてあります。紙についても、縦目・横目ということは書いてあって。やっぱり、それはすごい苦しめられたところなので。

――どんな具合にですか?

クワクボ:足がねじれちゃって「なんでだろう?」と思ったら、紙には縦目と横目があった。作られ方のプロセスが原因で、そういう紙目がありますね。ただ、和紙はないらしいですよ。

 こっち側には反るけど、こっち側には反りにくい――たぶん紙をやっている人の常識なんだと思うんですけど、僕らは今までまったく紙目を意識したことがなかった。「これはどうしよう」と思って、それはそれで、克服する進化を遂げた種もいるわけですけれども(笑)。

――今回、レプリカで使った紙に、紙目は?

クワクボ:ないですね。「ピーチコート」という合成紙を使っているので。そこはいろいろ迷いもあったんですが。

 本来だったら、普通の紙が持っている縦目・横目の特性をそのまま生かしたものを付けるべきという風に――もともと試作というか、進化させる過程で作った時は、全部を紙目がある普通の紙でやったので。それを商品として本当は使いたいところなんですけれども。経年劣化というか、長持ちさせる観点から、普通の紙だとヘタっちゃうかなと。

山口:そう、扱いやすさが違う。

クワクボ:だから、どれぐらい楽しめるかということを考えた時、一応、話の中でそれは「レプリカ標本」であるということにして。標本の世界でも、実物標本じゃなくて、他の素材でそっくりに置き換えたレプリカがあるから、そういう設定で今回は合成紙にしました。

ブックに付属するレプリカ / Photo:Masaki Ogawa Styling: Yumi Nakata

――そこも、ちゃんとストーリーを練り上げていったんですね。

クワクボ:最後は、嘘で嘘を塗り固める、フィクションでフィクションを、みたいな(苦笑)。紙の特性という話は本当なんだけれども、それを他の惑星で起きた話に置き換えたわけで「いったい何を書いているんだろう?」みたいな(笑)。


完成した作品の見どころ

――ここからは作品の見どころ、こだわりポイントを伺っていきます。いろんな楽しみ方がありますよね。こういうかたちで世に出すのは初めてですか?

クワクボ:こういうフィクション仕立てみたいなのは初めてかな?

山口:初めてです。

クワクボ:これまでの作品も、みんなフィクションみたいですけど(苦笑)。文章とかも、あまり書いたことがないので。

 我々はプロダクトとかを作るような人間ではないので、本当にそういうところからはかなり離れています。「これは何になるの?」みたいなところよりは、紙で1つの遊び方が発明できたのかな、という気はするんですよ。

――どんな遊び方でしょうか。

クワクボ:おそらく、できたルールは20センチ角の紙で「切るだけで、折らずに立たせる」という1種のゲームみたいなこと。これを見た人が、自分なりにそういうものを作ってもらったら面白いかな、とは思っていて。なので、そういったモチベーションを高められるような世界観、内容にしたところがあります。

山口:実際、すごくいっぱい作ったうちの一部しか本の中には出ていないんですけれど、それらの一部を「系統樹」にしているんですね。進化の過程がどうなったか、それを見てもらえると、どういう苦悩があり、立ったり/立たなかったりしたんだなとわかる(笑)。

 あとは、名前の付け方とかで、どこを慈しんだのかとか、そういうこともたぶん分かってもらえると思うので、そのあたりを見てもらいたいなと思います。

クワクボ:ちゃんと和名と学名があるので。学名のほうは、和名とはまた違う観点で付けたやつもあったりするので。

――いっぱいあると思いますが、いちばん苦労した点はどこでしょう。

クワクボ:今回は二重の意味で苦悩がありました。カミブリアの生き物である「タッタ」自体を進化させるいろんな苦悩と、それを系統樹であったり、1つの整合性のあるお話にするということで、かなり無理して作ったという苦悩があって(苦笑)。

 後から分かったんですけど、ヒトのデザインしたものなどを系統樹にするというのは土台、無理な話だったという。建築とか都市開発論で「都市はセミラティスである」という論があります。

ーークリストファー・アレグザンダー(パターンランゲージ論で著名な建築家)の「都市はツリーではない」ですね。

クワクボ:そうです。たとえば建物などの進化というのは、系統樹のように2本木で分化していくのではなくて、「こっちの建物のこの要素と、こっちの建物のここの要素が合わさって、新しいものができたり」とか。実は、生物で言ったら異種交配みたいなものがあると言うか。

 あと、人工物には1つの要素だけではなく、いろんな要素が複合しているので、系統樹のように書くことは、本当はできないんですよ。でも、それをどうにか今回は系統樹に落とし込もうということで、生物学の入門書みたいなものを見ながら、「こういう言い訳だったら一応できる」とか「こういうことが実際に起きていたから、これを使おう」みたいな感じで、どうにか生物学っぽい話にしたという。
 そういうのに詳しい人は、「あぁ、無理してるんだな」と思って面白く見てくれるかも(笑)。

系統樹の一部/ Photo:Masaki Ogawa Styling: Yumi Nakata

クワクボ:紙のアイデンティティという話で、地球での紙の進化と、カミブリアでの紙の進化というのは違っているんです。それは何かと言うと、地球では紙というのは、何か情報を載せるというところで重用されていたものだと思うんです。でも、カミブリアでは、そういう用途がなくて「ただ立つ」というアイデンティティがあるだけなんですね。

 そこは最初の話があった時に、福永さんから「紙が不要になりつつある」という話を受けているのかなとは思っていて。紙がなんで不要になるかと言うと、デジタルに置き換わっていくからです。情報を載せるための媒体としての紙を使うという用途は、だんだん要らなくなってくるのかもしれない。

 でも、紙という「身体そのもの」は、デジタル上に置き換わり得ない。それが、今回のたぶん一番コンセプトの重要なところです。つまり、カミブリアで起きていることというのは、これから先の「地球上での紙のあり方」にとって、何か示唆になるのではないかなと。紙はただの「情報の乗り物」ではない! と(笑)。

山口:話が大きくなってきた(笑)。

――カミブリアというのは別の天体の名前で、2次元の世界なんですよね。

クワクボ:6万5,000年ぐらい前に、地球とは1回衝突しているという設定です。

山口:同時期にあった別の場所にある天体で、最近また地球と衝突している。定期的にぶつかるんです(笑)。

クワクボ:その時、地球とカミブリアの間で、2次元と3次元の交換が起きるんですよ。地球では1回目の衝突以来、2次元のものに人間が執着し始めたんですね。壁画を描いたり、紙に書いたり、テレビを観たり、スマホを使ったり。どんどん世界が情報の乗り物としての2次元に突入していくんです。

 一方で、カミブリアには3次元が導入されて「立ち上がる」ということをし始めると(笑)。そういう交流によって、紙が別々の進化を遂げた。カミブリアで進化したものが、最近の再衝突によって一部が地球に残された、という設定なんです。

――最後、本はどのように終わっているんですか?

山口:ストーリー仕立てではあるんですが、結局は図鑑なので。最初にこういう背景があって、こうなっているよというストーリー。そのあとは図鑑編で、カミブリアの説明、器官の説明になります。

「THE CAMIBRIANS」のパッケージ/ Photo:Masaki Ogawa Styling: Yumi Nakata

――正方形のパッケージは、レコードジャケットのような印象がありますね。

クワクボ:ちょっと「石碑」みたいなイメージがあったかな。

――あとはどういうところに着目してほしいとか、実は隠されたポイントがあるとか、どうですか?

クワクボ:本に収録できなかったもののいくつかが、データでアクセスできるようになっています。もし、レーザーカッターを持っている人がいたら、そのデータで5種類ぐらい作れるようにしたんです。そこをきっかけにして、独自のカミブリアンを作ってみてほしいですね。


紙工視点に参加して得た視点

――「紙工視点 2022」の経験が、今後のパーフェクトロンの作品にどう影響しそうですか?

クワクボ:今回作ったカミブリアンの形というものは、たぶん自分たちの頭で作ったら、絶対に作らないような感じのものです(苦笑)。「紙が立とうとしたら」という設定を与えたのは、半ば自律的に進化していくようなプロセスだった。そういうやり方をしなかったら、絶対こういう形は作っていなかった。

 つまり「自分たちの頭とか感性だけで作ったわけじゃない」というところが、今までの作り方とかなり違うことになったなと思っていて。そういう、モノの作り方として、条件を与えて、その「モノのほうの進化に身を任せるようなやり方」というのが、今回はできたのかなと。今後、そんなやり方はあるのかも、という気はしますね。

――製図はCADなどを使うと思うんですけれど、形をプログラムでつくったわけじゃないんですよね。ルールを決めて、試作を進化させていった。この方法が初めてというのは、かなりインパクトがあったかと思います。

クワクボ:ふたりでしみじみ見ながら、「これは俺らが作ったのかな」みたいな、「どこから来たんだろう?」みたいな感じでした(笑)。

山口:普通はテーマも設定も決めてから制作するんですが、今回はすでにあるものをどんどん使って、足していくとか、引いていくとか、本当に手で遊んでいく感じ、戯れて作っていく感じでした。

――本にするというアイデアは、チームでディスカッションする流れで生まれてきたと思うんですが、作ってみた感想はどうですか?

クワクボ:みなさんとのミーティングでそういう話になっていき「面白いですね」と言いつつ、「これは大変なことになった……」とかと思って(笑)。でも、モノの文脈がいろいろ作れたというのが、僕らとしては面白かったですね。

山口:本当に面白かったです。本の中に入っていないものもたくさんあるけれども、それらを全部、本で世界観として作るというのが、すごく「含みを作る」というのが大変なところでした。

 でも、本になったのはすごく嬉しくて。本って、何となく作りたいけど「作れないナンバーワン」みたいな意識だったので。ひょんなかたちから本が作れたので、すごくいい経験をしたなと思います。


やっぱり紙は奥が深かった

――福永紙工との共同作業は、どうでしたか?

山口:福永さんに関しては、基本的に何事もいつも面白がっているし、紙が好きで楽しんでいらっしゃる。必ず良い空気を作ろうとしてくださって、いい会社なんだな、というのがひしひしと伝わってきます。基本的に「サポート力の塊」みたいな。ぐずぐずしていたら、絶妙のタイミングで優しいメールが来るとか。そういう、すごくいい頃合いに手を差し伸べてくださる、菩薩のような会社(笑)。

クワクボ:結構、自分たちが迷走している時とか、福永さんもきっと不安だったでしょう……(苦笑)。すごく根気強く付き合ってくださいました。

 あとは、今まで数々の企画をやっていろんなクリエイターと作られているので、「どうやったら新しいものができるか」ということに関して、何かスタンスをお持ちなんだと思うんですよね。「温かく支えて見守ってくれる」というのは、たぶんそういう経験に裏打ちされているところなんだろうなと。

――中学生の息子さんから、何か感想はありました?

クワクボ:僕は知らないなぁ。

山口:「もっとこうしたほうがいい」みたいなことを言われたような気がするけど。

クワクボ:ああ、何か言っていたね!

山口:「もっと学術的にしっかりしないと」的なことを言われたような気がする(苦笑)。まだでき上がる前で、フワフワした世界観の時に。

クワクボ:そうだった。確か、カミブリアンの世界観をいろいろ話して、模索しているあたりで何か言っていたね。

山口:「生物はこうじゃない」みたいなことを言われた気がします。うちの子どもは動物ドキュメンタリーとか生物進化論とか、そういうテレビ番組をよく観たり、学校で習ったりしてすごく知っているので。たぶん子どものほうが詳しいんですよね。進化の仕方とか、今回みたいに特別な突然変異が出ちゃうとか。最初のほうは納得いかないところがあったみたいです。

――そこから考えて、考えて、図鑑になったので、感想が楽しみです。一般的にはどういう人に買ってほしいというイメージはありますか?

クワクボ:僕は、やっぱり子どもたちとか……でも、これは扱いがすごく繊細なものなので、どうなるか分からないですけど。レプリカを立たせる時に少し気を付けてやる必要があるので。

――生き物の標本として考えたら、そんなに乱暴にはできないですから。

山口:そうなんです。

クワクボ:今回、漢字にルビも振っていないんですけども、「なんか謎の本を見てしまった!」みたいな感じで、あとあと影響が出るみたいな感じの本になるといいな、というところがありますね。

山口:私は、親子かな。お父さんもやってほしいなというか、お父さんとお母さんと一緒に見て「ハハーン」と言いながら作ったり、一緒にデータをダウンロードして作ってみたりしてほしいなと。

クワクボ:今回のレプリカは、風が吹いたりするとクルクル揺れたりして、モノとしても、「1枚の紙からこんな形状のものができるんだ」というのは、結構、見てもらう価値はあるなと思って。触角があるんですけども、風が吹いたりするとすごい揺れたりして、それでも立っている、みたいな。

 商品の主役は、レプリカとして作ったカミブリアンなので。それも見たり、しまったりして(笑)、末長く見て楽しんでほしい。

――ひっくり返すと、また1枚の紙に戻るわけですから。合成紙にしたことで強度も上がっていますしね。

クワクボ:そうですね。

山口:ちなみに、試作でずっと使っていたのは、「マーチカラー」という紙なんです。最終的にいろんな人が試せたらいいと思ったので、「みんなが知っている紙で作りたい」というのがあったんですよ。渋谷のハンズで売っていて、いわゆる「みんなが知っている色紙ってこれだろう」と思って、その紙にしたんです。

 でも、紙の専門家である福永さんは知らなくて、すごくびっくりしたんです。最後に分かったんですが、「マーチカラー」は渋谷のハンズでしか売っていなかった(笑)。

クワクボ:これはマズいと(苦笑)。

山口:普通の紙だと思っていたのに、そうではなかったという。

――やっぱり紙は奥が深いですね。ヨーロッパなどでは、また紙の文化が違うでしょうし。

山口:そうだと思います。湿度も違うし、環境が全然違うと思いますから。第一、雨の日は立たないし。

――ぜひ、今度は五大陸編のカミブリアンを期待しています(笑)。

<インタビューを終えて>

ふたりの創造論が垣間見える話でした。3組の参加作家のうち、最も試作で変化を重ねたのがパーフェクトロンのプロジェクト。紙の物性や復元力などを不思議がり、モビールの試作段階では「重力」という見えない力に影響される紙のすがたを作品に。重力にあらがい、2次元から3次元へ舞台を広げた時、壮大な世界観が構築されました。創造力と想像力の壮大さに浸れるプロダクトです。

インタビュー・文:神吉 弘邦


紙工視点2022 新作発表会およびギャラリートークイベント

会期
2022年9月16日(金) - 9月30日(金)
*最終日は17時まで

場所 
立川・GREEN SPRINGS「SUPER PAPER MARKET」
東京都立川市緑町 3-1 GREEN SPRINGS E2 209
(JR 立川駅北口徒歩8分 )
営業時間:11:00 - 19:00 休業日:なし


ギャラリートークイベント
2022年9月22日 (木)15:00 - 17:00
開催場所:SUPER PAPER MARKET 内「紙工視点 2022」展示会場および TOKYO 創業ステーション TAMA
登壇:大野友資、パーフェクトロン(クワクボリョウタ+山口レイコ)、五十嵐瑠衣
進行:岡崎智弘、山田明良
*先着30名様まで
*参加無料 
*事前申し込みはこちらから


【紙工視点2022】から発表された製品は
福永紙工 ネットショップ「SUPER PAPER MARKET」でご購入いただけます。


紙工視点の他の記事

もっと見る