紙工視点 2018.09.26.(水)

荒牧 悠の作り方:
自分の手で触り、素材の本質を知る

「紙工視点」第2回目のインタビューでは、参加作家のデザインへの向き合い方を掘り下げます。前回のインタビューで、作品は「プロセスのかたち」だと話してくれた、荒牧 悠さん。その前段階には、さまざまな試行錯誤があります。素材の本質を探る、荒牧さんの視点を追いかけました。

荒牧さんは、福永紙工のショールームで取材しました。

―荒牧さんは、どのように作品を作り始めるのでしょう?

荒牧 悠(以下、荒牧) まず、その素材ができること、をすごく考えます。

―「素材ができること」とは…?

荒牧 こうやったらまるが作れるとか、こうしたら接着できる、とかです。作り方を知ると、できることが増えるというのが、自分のなかで分かっているんです。そして作り方を工夫すれば、ものができる。

―最終形態のものは、はじめから頭の中にあるんですか?

荒牧 いや、ないですね。最初は全く、意識がない(笑)こうしたら綺麗かもとか、違う素材と組みあわせたら面白いかも、とかの工夫だけしています。

―自分の手で確かめるフェーズがあるんですね。

荒牧 手で扱ってないと、わからないんですよね。例えば、ガラスと真鍮を組みあわせたらどうなるんだろう?って考えていたとき、溶接や接着をしてみても、うまくいかなかったんです。どうやれるかを考えているうちに、熱を使わずに組み上げる方法を思いつく、みたいなこともありました。

ガラスと真鍮、異素材を組みあわせた習作。

―いわゆる素材研究、とも少し違うのでしょうか?

荒牧 料理と似たような感じかもしれません。醤油と砂糖とお酒を使うと、煮物が作れることがわかったら、冷蔵庫のなかのものだけで料理できる、みたいな。そういう発想なんだと思うんですよね。

―自分のための料理って感じですね。

荒牧 そうですね。すごく個人的ですね(笑)こんなに工夫できた!って感じです。

―荒牧さんは、仕事や依頼がなくても、作品を作っていますよね。

荒牧 はい。作ってないと、最近、身体洗ってないな…みたいな気持ちになります。

―紙という素材については、これまで考えていたことってありますか?

荒牧 紙って、ずっとテンポラリーなものだと思っていたんですよね。紙コップとか、紙ナプキンとか、すでにあるものが、便利なものに置き換わっている印象でした。

―使い捨てのものも、多いですね。

荒牧 でも、切り絵や、美術作品も、紙でできている。もちろん、本も紙だし。なんか、範囲が広すぎて(笑)

―他に気づいていたことは、ありますか?

荒牧 紙って、なぜだか四角形で考えがちなんですよね。折り紙とか、コピー用紙とか、いつもすごく四角い。だから、まるく切り取るだけでも、なにか紙以外のものに見えてくることもある。

―前から気になっていましたが、荒牧さんは、まるを作ることが多いですね?

荒牧 たしかに…何かを確かめるとき、まるにしますね。方向性がないし。やっぱりまるって、段階が一つ複雑なんです。四角をまるにするだけで、手が入っている感じがするんですよね。あ、でも木は最初からまるいか。
角があると、その扱い方が気になっちゃいます。「かどっこ」って、なんだかすごく機能しそうじゃないですか。

真鍮のワイヤーで作られた「箱と円シリーズ」(2017)。荒牧さんの作品は幾何学的な形も多いですが、特に円形はよく使われています。Photo : Hyogo MUGYUDA Courtesy of SPIRAL / Wacoal Art Center

―たしかに。そもそも紙が四角いのは、裁断の都合です。

荒牧 うん。紙を製品にするためだと思うんですけれど、その都合が紙の印象になっているんだと思うんです。

―身の回りの「紙」って、素材だと思っていても、すでに製品なんですね。

荒牧 そうですね。それから、ノートみたいな「書くための紙」が、一番身近なはずなのに、「紙を使ったものを作ってください」と言われると、切ったり、折ったりすることを考えてしまう。書くことに対して、そんなに意識がいかないのも、不思議です。文字を書いたり、印刷したりっていうのは、素材としてではなく、媒体としての扱いなのかな、と思ったんです。ほんとに一緒の紙?ってくらい、扱いが全然違う。

―たしかに、不思議です。荒牧さんは「言われてみたら不思議」ということを見つけるのが、得意ですよね。

荒牧 そうなのかな…IF(言(I)われてみたら不(F)思議)…でも、そういうの好きですね。あと、ものまねも好きです。

―ものまね…。

荒牧 まるっきり同じじゃないけど、そう見える、みたいな。だから、強調するっていう表現方法が、すごくしっくりきます。素材の特性を、強調するような。

―作品にも「ものまね」の要素があるんですか?

荒牧 ものまねって、デフォルメして強調することでもあると思うんですよね。素材のことを考えて、どういう使い方をしたら、その特性を強調できるかな、と考えているので。

「円と奥行き」(2018)は、あえて素地の木を見せる部分を残すことで、見方によってさまざまな図形が現れる作品。パネルが木でできていることを強調できる図柄を考えたそうです。photo : Aya Kawachi

―紙工視点は、「紙を捉えなおす」ことが一つのコンセプトです。荒牧さんのこれまでの制作方法に近い部分もありますが、どうですか?

荒牧 そうですね。今回は紙の特性を、本当によく観察しないといけなかったので、自分でひたすら試すしかありませんでした。まるをたくさん作って、切込みをいれて、はめてみて。そういうなかで、伝えたくなるような紙の特性に、気づいていくことができました。これまでと違うのは、製品だという部分です。作品として人の手に渡るのではなく、手にした人自身のものとして、製品は使ってもらうことになる。作品よりも少し距離を置いて考えられる、不思議な体験です。

―決め手になるアイデアは、工場を探索してるなかで見つけたらしいですね。

荒牧 はい。ある端材との出会いがあったんです。

工場を漁る荒牧さん。運命的な出会いをした端材とは、このあたりで出会いました。

第3回目に続きます

取材・構成:角尾 舞

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